裏波ビードの形成
「ティグ溶接入門」(著者:横尾尚志、他、発行所:産報出版、ISBN:978-4-88318-206-0)より。
溶接施工しながら作業者自身が裏波ビードの形成状況を直接観察するのはほとんど不可能であるが、ある程度経験を積めば、溶融池の状態から裏波ビードのでき具合を推定できるようになる。
たとえば、
などの現象が認められる。
- まだ母材裏面まで溶融していない間は、熱膨張によって溶融池がやや盛り上がっているように見える。
- 母材裏面まで溶融して裏波ビードが形成されると、溶融金属が裏面に流動するので溶融池表面がやや凹んで見える。
- 裏波ビードが安定して形成されているときは、溶融池に比較的透明感があり、その大きさもほとんど変化しない。
- 裏波ビードが正常に形成されなくなったときは、急に溶融池の透明感が失われて、少し黒みを帯びたように見える。溶融池の大きさも現象している。
- 溶落ちが生じる寸前には、溶融池の透明感が急に増したように見え、溶融池の大きさも増加している。
したがって、まず溶接開始点でトーチを静止したままルート面を裏面まで溶融し、溶融池の挙動と状態から裏波ビードが形成されたことを確認したのち、溶融池の大きさを常に一定に保つように注意しながらトーチを移動すればよい。
溶接開始点でトーチを静止して、溶融池が(1)の状態から(3)の状態になるのを待ち、(4)の状態に行く前にトーチを移動し始めるということ。これを遮光ガラス越しにやってのけるんでしょ、職人さん達すごすぎ・・・
6. 余計な修飾語をなくせ by カズオ・イシグロの父
「テクニカルライティング by カズオ・イシグロの父 - imakov’s blog」で紹介した石黒鎮雄著『日本語からはじめる科学・技術英文の書き方』(ISBN 4-621-04016-2)では、不必要な語句を取り除くことを推奨している。これにはimakovも激しく激しく同意する。仕事上メーカーの技術者が作成した日本語の報告書をレビューしたり、受領した報告書を英訳して外国の研究者に提出しているのだが、そういった報告書は本当に不必要な語句が満載である。
以下の例では、下線の部分はテクニカルライティングとしては無い方が良い。
- この要素は回路網理論でいうところの帰還ループを形成している。
- 水圧が増加すると当然のことながら容器は変形する。
- 理論的な意味からも限界に近づいた。
- 更にいわばX項をその範囲に収めることを意図したものである
- 以上のべたように・・・
- このような短文では詳しく説明する余裕はないが・・・
- 図にXの変化の様子を示す
- その値は式4で与えられることが導かれる
以下に長文の例も示す。不必要な語句を取り除くことの、有益さがよくわかる例である。
【ダメな原文】 垂直線が存在する場合にはこの仮定が成立せず垂直線の存在によって見かけ上の縦線群の不規則性が明瞭に現れてしまい、繰り返しによってこの不規則な縦線(以下、擬似縦線群と呼ぶ)が検出されてしまうことが判明した。これに対処するために、縦線群の基本的制約を考慮し、繰り返しの各段階で検出して擬似縦線の発生を押さえると共に、さらにこの制約にもかかわらず除去できなかった縦線群を統計的に除去する方法について述べる。
【ダメな原文の不要部分をハイライト】 垂直線が存在する場合にはこの仮定が成立せず垂直線の存在によって見かけ上の縦線群の不規則性が明瞭に現れてしまい、繰り返しによってこの不規則な縦線(以下、擬似縦線群と呼ぶ)が検出されてしまうことが判明した。これに対処するために、縦線群の基本的制約を考慮し、繰り返しの各段階で検出して擬似縦線の発生を押さえると共に、さらにこの制約にもかかわらず除去できなかった縦線群を統計的に除去する方法について述べる。
【修正した文】垂直線があるとこの仮定は成立せず、見かけ上の縦線群の不規則性が現れ、繰り返しによってそれが顕著になる。縦線群の基本的制約を考慮して繰り返しの各段階でその発生を押さえ、なお残った分を統計的に除く方法を述べる。
これ、ねんちょヨロ
年末調整の給与所得を算定するための『訳の分からない表』をプロットしてみた。
『訳の分からない表』はこれ↓
プロットした結果がこれ↓。給与収入が百万円(106)から一億円(108)までをプロットしている。赤線が控除後の所得で、黒点線は控除無しの所得(給与収入の全額が給与所得)である。したがって、給与が低い人ほど多く控除してもらっているのが分かる。あの『訳の分からない表』をプロットすると結構美しいというか、滑らかに接続していると思う。
これをプロットしたmatlabのコードは以下のとおり。
close all clear variables %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% x = logspace(0,8,200); y = x - 1950000; thres_min = 1; thres_max = 550999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = 0; thres_min = thres_max+1; thre_max = 1618999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = x(index)-550000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 1619999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = 1069000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 1621999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = 1070000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 1623999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = 1072000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 1627999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = 1074000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 1799999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = floor(x(index)/4/1000)*1000*2.4+100000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 3599999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = floor(x(index)/4/1000)*1000*2.8 - 80000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 6599999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = floor(x(index)/4/1000)*1000*3.2 - 440000; thres_min = thres_max+1; thre_max = 8499999; index = thres_min <= x & x <=thres_max; y(index) = x(index)*0.9 - 1100000; %+++ PLOT +++ loglog(x, y, 'r-', 'LineWidth', 2) hold all loglog(x, x, 'k-.', 'LineWidth', 2) xlabel('給与の収入金額(円)') ylabel('給与所得の金額(円)') xlim([1e6, max(x(:))]) ylim([1e6, max(x(:))]) grid on set(gca,'ticklength', 2 * get(gca,'ticklength')) axis square
5. 同意句の重複をなくせ by カズオ・イシグロの父
前回のブログ「4. 同一語の重複をなくせ by カズオ・イシグロの父 - imakov’s blog」の続き。同一語の繰り返しでないとしても、同じ意味の言葉を繰り返すと必要な部分が目立たなくなり、文意が弱くなる。
- 【例1】この理由は、加えた試薬が純粋でないのが原因である。
- 【改1】加えた試薬が純粋でないのが、この原因である。
- 【例2】分離を行なった理由は、分離を行わないと色彩が変わる為である。
- 【改2】分離しないと色彩が変わる。
- 【例3】その理由は、重量が変化するからである。
- 【改3】それは、重量が変化するからである。
- 【例4】境界が無限遠と見なすことができるほど領域を十分広くとることにより、この項をゼロと近似できる。
- 【改4】境界を十分広く取れば、この項をゼロと見なせる。
- 【例5】長い冬が明けると、この国の南部では次々に花が開く。まずクロッカスの蕾がふくらみ、これを追うように水仙が咲く。アーモンドの満開は2月、ゴールデンベルズの濃い黄色が人目を引くのは3月である。
- 【改5】この国の南部では2月から3月にかけ、クロッカス・水仙・アーモンド・ゴールデンベルズの順に花が咲く。
- 【例6】この問題には多くの論文があり、Aの報告があり、Bの論議があり、Cの研究があり、Dの提案もある。
- 【改6】この問題には、A・B・C・Dなどによる論文がある。
4. 同一語の重複をなくせ by カズオ・イシグロの父
「テクニカルライティング by カズオ・イシグロの父 - imakov’s blog」で紹介した石黒鎮雄著『日本語からはじめる科学・技術英文の書き方』(ISBN 4-621-04016-2)では、重複に敏感でない著者が以外に多いことが指摘されている。以下に、実際に学術誌で発表されている論文の例と、それを石黒鎮雄が改めた文とを記載する。
- 【例1】光源には白色光源を用いた。
- 【改1】用いた光源は白色である。
- 【例3】処理は、処理1〜6の処理を含む。処理1〜5までを、標本の3種類の各幅について行って標本ベクトルを得た後、処理6でこれらを統合する。
- 【改3】処理は6段階に分かれ、1〜5で3種の幅の標本ベクトルを得て、6でこれらを統合する。
- 【例4】Kが大きいと効果が増加する理由として、(a)・・・、(b)・・・の二つの理由が考えられる。
- 【改4】Kが大きいと効果が増すが、二つの理由が考えられる。(a)・・・、(b)・・・
imakov的には「が」で文を繋ぎたくないので、この文は「Kが大きいと効果が増加する理由は二つ考えられる。(a)・・・、(b)・・・。」としたい。
- 【例5】人は物の色彩を表現する際、その物体本来の色彩で表現する。
- 【改5】人は物の色彩を、その物体本来の色で表現する。
- 【例6】Xは振動の負荷という点から重要な要素であるが、これは板の振動特性によって生じるものであるから板の特性を知る上でも非常に重要である。
- 【改6】板の振動特性によって決まるXは、振動の負荷としてのみでなく、板の特性を知る上にも非常に重要である。
ANSYSで静止摩擦力を計算するには
ANSYSで静止摩擦力を計算するにはどうするのかを調査した。そこで、角度θの斜面に質量Mの物体がある場合というもっとも簡単な状況を設定した。
そもそも、ANSYSでの接触の定義は5種類ある: 「ボンド」、「分離しない」、「ラフ」、「摩擦無し」及び「摩擦あり」。このうち、調査すべき接触の定義は「ボンド」と「ラフ」であった。それ以外を検討しなかった理由を、以下の表にまとめた。
接触の定義 | 検討しない理由 |
---|---|
ボンド | (検討対象) |
分離しない | 剛体移動して計算できない。 |
ラフ | (検討対象) |
摩擦無し | 剛体移動して計算できない。 |
摩擦あり | 動摩擦力を計算するため。 |
ということで、ボンド結合とラフ結合の条件でのANSYSの結果と理論解とを比較した。斜面の上に、50 mm角の鋼の立方体があるとし、斜面の角度を変えて計算結果を比較したのが下図だ。
摩擦力関して青色の理論解とあっているのは、灰色のラフ結合の結果である(垂直抗力はボンド結合・ラフ結合ともに理論解と合っている)。したがって、「静止摩擦力を考慮すべき条件ではラフ結合とすべし」ということになる。
ということで、まとめるとこんな↓感じでしょうか。workbenchでは、「静止摩擦力で計算しておいて、最大静止摩擦力を越えたら動摩擦に切り替える」という計算はできないと思われる。
ボルトの回転ゆるみ
ボルトが緩む現象は、回転ゆるみと非回転ゆるみに分けられる。振動する場所でボルトを使っていると緩んでくるのは、回転ゆるみの方だ。これまで振動によってボルトが緩む原因を勘違いしていた。振動時には被締結体が色んな方向に動くので、たまたまボルト・ナットを緩める方向に動くと回転ゆるみが進行するのだと思っていた。そうではなくて、どんな方向に被締結体が動こうと、とにかく座面が滑ったら回転ゆるみが発生するようだ。
ボルト締結のイメージは、次の図のようにあらわせる。ナットを締め上げると、ボルトが伸ばされ(被締結体は圧縮され)、伸びた量にばね定数をかけた復元力が、ボルトの軸力になる。例えば、M10・長さ30・ピッチ1.5のSUS304製のボルトがあるとすると、縦弾性係数を197 kN/mm2(つまりはGPa)として10ミクロンの伸びで3.81 kNの軸力を発生する。つまり、被締結体に388 kgの重りが載っていることになるので、すごい軸力だ。降伏点応力(224 N/mm2(つまりはMPa))まで軸力をかければ、ボルトの伸びは34ミクロンになり、軸力は13 kNにもなる。つまり、被締結体に1.3 tonの重りが載っていることになる。
スパナでボルト・ナットを締結した後に、元の状態に戻らないのは静止摩擦が働いているからだ。これはボルト・ナットのおねじ・めねじの部分だけではなくて、『ボルト頭と被締結体との間の静止摩擦(ボルト頭の座面での静止摩擦)』と『ナットと被締結体との間の静止摩擦(ナットの座面での静止摩擦)』も関連している。被締結体が(どんな方向であろうと)動くと、座面での摩擦が動摩擦になる。すると摩擦力が下がるので締結前の元の状態に戻ろうとして回転ゆるみが発生する。
座面での相対滑りが問題なので、回転ゆるみを起こさせないためには静止最大摩擦力を大きくするしかない。これは、静止摩擦係数を大きくするか、垂直抗力を大きくする必要がある。
スプリングワッシャや皿ばね座金が、振動時のゆるみ対策に有効かどうかという議論になることがある。ネジに関する書籍・ホームページを見るに、そういった座金は有効でないという派閥の方が多数派だと思う。色んな解説があるが、要はスプリングワッシャや皿ばね座金では軸力は増えないし、静止最大摩擦係数も大きくならないから、相対滑り対策になっていないということなのだと思う。