ボルトの回転ゆるみ

ボルトが緩む現象は、回転ゆるみと非回転ゆるみに分けられる。振動する場所でボルトを使っていると緩んでくるのは、回転ゆるみの方だ。これまで振動によってボルトが緩む原因を勘違いしていた。振動時には被締結体が色んな方向に動くので、たまたまボルト・ナットを緩める方向に動くと回転ゆるみが進行するのだと思っていた。そうではなくて、どんな方向に被締結体が動こうと、とにかく座面が滑ったら回転ゆるみが発生するようだ。

ボルト締結のイメージは、次の図のようにあらわせる。ナットを締め上げると、ボルトが伸ばされ(被締結体は圧縮され)、伸びた量にばね定数をかけた復元力が、ボルトの軸力になる。例えば、M10・長さ30・ピッチ1.5のSUS304製のボルトがあるとすると、縦弾性係数を197 kN/mm2(つまりはGPa)として10ミクロンの伸びで3.81 kNの軸力を発生する。つまり、被締結体に388 kgの重りが載っていることになるので、すごい軸力だ。降伏点応力(224 N/mm2(つまりはMPa))まで軸力をかければ、ボルトの伸びは34ミクロンになり、軸力は13 kNにもなる。つまり、被締結体に1.3 tonの重りが載っていることになる。

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スパナでボルト・ナットを締結した後に、元の状態に戻らないのは静止摩擦が働いているからだ。これはボルト・ナットのおねじ・めねじの部分だけではなくて、『ボルト頭と被締結体との間の静止摩擦(ボルト頭の座面での静止摩擦)』と『ナットと被締結体との間の静止摩擦(ナットの座面での静止摩擦)』も関連している。被締結体が(どんな方向であろうと)動くと、座面での摩擦が動摩擦になる。すると摩擦力が下がるので締結前の元の状態に戻ろうとして回転ゆるみが発生する。

座面での相対滑りが問題なので、回転ゆるみを起こさせないためには静止最大摩擦力を大きくするしかない。これは、静止摩擦係数を大きくするか、垂直抗力を大きくする必要がある。

スプリングワッシャや皿ばね座金が、振動時のゆるみ対策に有効かどうかという議論になることがある。ネジに関する書籍・ホームページを見るに、そういった座金は有効でないという派閥の方が多数派だと思う。色んな解説があるが、要はスプリングワッシャや皿ばね座金では軸力は増えないし、静止最大摩擦係数も大きくならないから、相対滑り対策になっていないということなのだと思う。