核融合ベンチャーその1:TAE Technologies

昔はTri Alpha Energyという会社名で、トライアルファとみんな呼んでいた。いつからかTAE Technologiesという名称になり、ティー・エー・イーと呼ばれている。アメリカに核融合ベンチャー企業が立ち上がり、それがしかもFRC(field-reversed configuration)を採用しているというからとっても驚いた。創業は1998年からだが、日本でも知られるようになったのは2008年とかそういった頃ではないかと思う。とにかく、核融合ベンチャーの老舗です。

下の図は、TAEの実験装置の模式図です。左右でプラズマをつけた後に、中央部分に移動させて合体し、合体したプラズマを中性粒子ビームというので加熱しつつ回転させます。核融合は磁場でプラズマを閉じ込めるですが、磁場の構造によって色んな種類に分けることができます。TAEはFRCと呼ばれる磁場構造(磁場配位)をしています。 f:id:imakov:20211201230341j:plain

この会社の特徴は以下の2点です。

  • p-11B核融合炉を目指している
  • FRC配位を採用している。

p-11B核融合炉というのは、「中性子が発生しない究極の核融合炉」のようなことが言われます。TAEのWEBサイトでも、「中性子が発生しないから炉の保守が簡単になるんだぜ。すげーだろ」といったメリットをうたっています。ただ、p-11Bには色んな反応経路があるし、核反応生成物と炉壁(ステンレス)との核反応も考慮すると、この方式は完全な中性子フリーではないし、炉が全く放射化しないわけではない。p-11B核融合炉を目指すなら具体的にどれくらい放射化するかちゃんと見積もってほしいなぁと思う。

ITERなどに代表される核融合装置は、p-11B核融合炉ではなくてD-T核融合炉をめざしています。なぜかというと、D-T反応は起こさせやすいからなんですよね。D-Tならプラズマ温度を10keVのオーダーに持っていけば良いですが、p-11Bだと100keVのオーダーにしないといけません。反応断面積を比較した次の図を見ると、p-11Bのハードルの高さは一目瞭然ですよね。

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p-11B核融合炉は中性子が出ないのは良いのですが、それだと熱を取り出しにくいというデメリットもあるんですよね。D-T核融合炉を目指している装置では、核融合反応でプラズマから飛びできた中性子をブランケットというので受け止め、そこでトリチウムを生成しつつ中性子のエネルギーを熱エネルギーに変換してタービンを回すためのエネルギー源にしています。p-11B核融合炉では、中性子が飛び出て来ないからそれができないんです。だから、プラズマのエネルギーを電気エネルギーに変換する装置(Direct Energy Conversion, DEC)が必要なんです。英語のwikipediaにはその記事がありますね(Direct energy conversion - Wikipedia)。TAEの発表資料や、現状の実験装置を見ていると、どうやってDECを取り付けるのかがわからない。あと、DECで実際にエネルギー回収した例があるのかも不明。寿命はどうなんでしょうねぇ。MHD発電は電極の腐食で絶対成立しないなんて話も聞いたことがありますし。。。

2番目の特徴のFRCですが、FRCをここまで発展させたのはすごいです。今の発表だと、パルス幅30 msで電子温度が120 eVぐらい出てるんですかね。文句なしのFRCチャンピオンです。Googleと共同で実験を最適化することで、このようなスペックを叩き出したようです。でも、トカマク配位ならこんな値すぐ出せるじゃないですか。だから、FRCとしてはすごいけど、やっぱり核融合炉としてはしょぼすぎませんかと思ってしまう。