ノーベル賞・ジェンダー・科学者・ムスリム

BBCの2021年10月12日の記事に、『ノーベル賞に「ジェンダーや民族の割り当て作らない」=スウェーデン王立科学アカデミー』というタイトルの記事が載っていた。2021年のノーベル賞の女性受賞者が、平和賞のマリア・レッサ氏のみだった。ノーベル賞受賞者には女性が少ないことが問題であると主張する人達に対して、スウェーデン王立科学アカデミー ゴラン・ハンソン所長は「ジェンダー割り当てをするつもりはない」と公言したというニュース。

本ブログで男女ギャップについて議論するつもりはない。冒頭でBBCの記事を取り上げたのは、同記事の中で「欧州と北米では女性の自然科学教授は全体のわずか10%、東アジアではもっと少ないことを忘れてはいけない」と書いてあって、PHYSICAL REVIEW PHYSICS EDUCATION RESEARCHの女性物理学生に関する以下の記事を思い出したからだ。BBCの記事では欧米と東アジアにしか言及していないが、実はムスリムでは理学部における女子の比率が高いのだ。

journals.aps.org doi: https://doi.org/10.1103/PhysRevPhysEducRes.17.010114

アメリカでは博士課程の学生の20%が女性であるのに対して、イランでは47%が女性であるという。そこで、どうしてムスリムでは女性物理学生が多いのか、各国の女性物理学者にインタビューして文化的背景が女性の進路に与える影響を調査したのがPHYSICAL REVIEW PHYSICS EDUCATION RESEARCHの論文だ。

面白いと思ったのは、ムスリムでは男女間の交流をさせない文化があるため、そもそも男子学生と女子学生を比較することがないという。公立の学校は男女別が普通のようだ。だから、科学・物理は男が専攻するものだというステレオタイプもないという。また、女性は目立つべきではないという文化的背景があるため、一人で黙々と勉強する科学・物理というのは女性的であることに適しているという。(欧米の?)女性は社会的なつながりを重視する傾向があり、科学・物理を理解することは社会的つながりに貢献しない(だから女性は科学・物理を選択しない)という先行研究があるようなのだが、所変わると科学・物理が女性らしさにつながるのだから不思議だ。

ちなみに、ムスリムでは理学部における女子の比率が高いといってもそれは大学院までであって、理系の仕事に就く人は少なく、卒業後は家のことをする人が多いようだ。