問題は日本語じゃない、あなただ

日本語は論理的でないという議論があった。今の若者はどう思っているのか分からないが、昔は欧米に対する劣等感がそうさせたのか日本語が論理的でないと本気で思っている人たちがいた。明治の頃は、森有礼が日本語廃止論・英語採用論を議論していた。日本の敗戦後まもなく志賀直哉が、日本語は止めてフランス語を国語にすべきだと主張した。フランスで哲学が発展した(構造主義が生まれた)のは、フランス語のおかげだと考えている人たちがいた!

日本語が非論理的であるという人たちは、日本語の名詞には単数形と複数形の区別がなく、冠詞も無いことなどを問題視しているようだ。例えば、「こどもが笑った」という文が、「A child laughed.」「Children laughed.」「The child laughed.」「The children laughed.」と訳せてしまうことが良くないというのだ。

『実践・日本語の作文技術』本田勝一、ISBN978-4-02-261053-9の本では、論理的じゃないのは日本語の問題じゃなくて、それを使っている人の問題だと指摘する。以下、同本より抜粋。

  • 日本語で文章を書くという時は、日本語への慣れを捨てなければいけない。日本語をハッキリ客体として意識しなければならない。日本語を外国語として取り扱わなければならない(『論文の書き方』清水幾太郎
  • 「日本語は論理的でない」という俗説もこれに近い種類の妄言であろう。あらゆる言語は論理的なのであって、「非論理的言語」というようなものは存在しない。
  • いくら日本語が論理的であっても、それを使う人間が論理的であるとは限らない。
  • 英語だっていくらでも、不明瞭な文章は作れる。
    • The National Guardsmen the governor the people the students had tried to talk to had elected ordered to the campus milled about in the quadrangle clutching their canteens. (『入門変形文法』J T グリンダ―、S H エルジン
    • この文を直訳すると、『生徒が対話を試みた人々が選んだ知事からキャンパスに行くように命じられた州兵達は、ナイフ・フォークセットを握りしめて中庭を動き回っている。』となる。英語でも日本語でも訳ワカメ

金田一春彦の『ホンモノの日本語を話していますか?』には、英語が言語として優れている訳ではないとして、以下の例を挙げている。

  • 「あなた」も「あなた達」も同じyouで表現すること
  • クリントン大統領は何代目の大統領ですか?」という文を作れない
  • 「10月13日は何曜日ですか?」という文を作れない。

ちなみに、最初の一点については金田一の指摘は間違ってしているかもしれない。少なくとも、アメリカ人は「あなた達」というと時は「you all」とか「you guys」というらしい。複数人に向かって単に「you」という時は、「あなた達一人一人が」というような意味となる(集団ではなく個人を意識している)ようだ。ただ、イギリス人がどうなのかは分からない。

有名な「象の鼻は長い」「(食堂で注文する時に)僕はウナギだ」「こんにゃくは太らない」といった文法的議論は、また別の機会に。