核融合ベンチャーその2:General Fusion

前のblogで紹介したTAE(核融合ベンチャーその1:TAE Technologies - imakov’s blog)の次に出てきたのが、カナダのGeneral Fusion(ジェネラル・フュージョン)社です。2002年創業ですね。カナダは核融合をやっているイメージがないので、カナダ政府などの支援を受けて起業したのは意外でした。それがなぜか、イギリスでUKAEA(英国の原子力研究所)と協力して2025年から運転を開始する核融合炉を作るとプレス発表したから、もう訳分かんないですよね。

General Fusionは、磁化標的核融合(Magnetized Target Fusion)という手法で核融合炉の実現を目指しています。この手法は、一度プラズマを磁場で閉じ込めた後に、それを圧縮させて核融合反応を発生させるというアイディアで、トカマクなどの磁場閉じ込め核融合とレーザーを使用する慣性核融合のハイブリッドみたいな手法です。歴史的には米国Los Alamos National Laboratryがずっとこの手法を研究をしていましたが、種となるプラズマ生成の研究をしていただけで、圧縮するところまではどこもやっていないと思います。

下図がGeneral Fusionで考えている核融合炉です。中心に真空容器があり、それをたくさんのピストンが取り囲んでいます。真空容器の上についているのは、プラズマ発生装置で、上から中心に向かってプラズマが移動してきます。下図の青白く光っているのがプラズマですね。そのあと、周囲のピストンがプラズマを圧縮させるのですが、それには液体金属の壁を用います。ピストンが液体の金属を押し、液体の金属がプラズマを圧縮するという流れです。プラズマを均一に圧縮したいので、金属壁は球殻形状にしたく、そのために液体金属は真空容器の中をグルグル回転しています。グルグル回っている液体金属の、渦の中心の空洞部分にプラズマを放り込むわけです。ピストンは、液体金属を押し込むというよりは、衝撃波を伝えているようです。ピストンの中のシリンダー(下図の赤いやつ)が、秒速100mで鉄床に叩きつけられ、その時の衝撃波が液体金属を伝わっていきます。周囲にある多数のピストンから伝搬した衝撃が中心で重なるように、ピストンの動作を制御してあげて、200マイクロ秒以下で一気にプラズマを圧縮します。プラズマは径方向に10分の1まで圧縮され、プラズマの中心密度は1026m-3、温度は10 keV、磁場は100 Tになるそうです。

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液体金属壁を圧縮するというアイディアは1970年頃からあって、当時の技術では多数のピストンの駆動タイミングを制御できなかったようです。今では、高速駆動ブレーキ付きのサーボコントロールが可能なので、磁化標的核融合が現実的だというのがGeneral Fusionの言い分だと思います。

この手法でよく分からないのは以下の2点です。

  • 均一な圧縮
  • 核融合反応で得られた熱の取り出し

まず、均一な圧縮ですが、レーザーを使用する慣性核融合ではこれにすごく苦労しています。慣性核融合では、『プラスチックのシェルの中に燃料となる重水素三重水素をいれたターゲット』にレーザーを打ち込みます(正確ではないですがまぁそこは置いといてください)。ターゲット表面が一気に加熱されプラズマ化して、衝撃波が中心にあつまり、それが重水素三重水素を圧縮し核融合反応が起こります。この『衝撃波を中心に集める』といのが非常に難しいんです。下の図は圧縮中のターゲットの写真ですが、ギザギザした形状が見えます。1995年の実験ではギザギザが不均一な形状ですが、2020年にはギザギザが均一になっています。これを達成するために、プラスチックのシェルの作り方をものすごく研究しています。最先端の核融合の研究のために、『直径数mmのプラスチックのカプセルをいかに真球に近づけるか、膜厚をいかに均一にするか』という地味な研究をずっと続けているわけです。それに比べると、General Fusionの金属壁ってあまりに精緻さに欠けると思うんですよね。少なくとも上の模式図では、円筒側面にだけ液体金属壁があって、プラズマの上下方向には液体金属壁がないので、横から押しても縦方向に圧力が逃げて圧縮できなさそうですよね。昔の炉心の構想図は、もっと球形に近かったので均一な圧縮ができそうでしたけど、最近の構想図には疑問が残りますね。

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核融合反応で得られた熱の取り出しは、液体金属壁を回収することで実現できます。核融合反応が起こると、それに近接している液体金属が熱くなります。それを回収して熱交換器で水に熱を伝え、それでタービンを回すわけです。かれらの想定では、『毎秒1回核融合反応を起こさせて100 MWの出力を得る』ということだそうですので、『液体金属を注入して、回転させて渦を作り、そこにプラズマを注入して圧縮して核融合反応を起こさせ、液体金属を回収して、次の液体金属を注入して・・・』というのを1秒間隔で繰り返す必要があります。このプロセスを1秒で全部やるって、ちょっと想像がつかないんですよね・・・液体金属は単に回転させれば良いのではなくて、均一な圧縮のために壁表面が滑らかであるべきなのですから、簡単ではないはずです。液体金属の回収は、重力を使って真空容器の下側から取り出すはずですが、液体金属が回転していては下側に集まらないので、一度回転を止めてやる必要があるはすです。ちなみに、容器の中は真空なので、(掃除機のようなもので)吸い出して液体金属を回収するというのもできません。うーん、1秒でどうやるのか全く想像がつきませんねぇ。

核融合ベンチャーその1:TAE Technologies

昔はTri Alpha Energyという会社名で、トライアルファとみんな呼んでいた。いつからかTAE Technologiesという名称になり、ティー・エー・イーと呼ばれている。アメリカに核融合ベンチャー企業が立ち上がり、それがしかもFRC(field-reversed configuration)を採用しているというからとっても驚いた。創業は1998年からだが、日本でも知られるようになったのは2008年とかそういった頃ではないかと思う。とにかく、核融合ベンチャーの老舗です。

下の図は、TAEの実験装置の模式図です。左右でプラズマをつけた後に、中央部分に移動させて合体し、合体したプラズマを中性粒子ビームというので加熱しつつ回転させます。核融合は磁場でプラズマを閉じ込めるですが、磁場の構造によって色んな種類に分けることができます。TAEはFRCと呼ばれる磁場構造(磁場配位)をしています。 f:id:imakov:20211201230341j:plain

この会社の特徴は以下の2点です。

  • p-11B核融合炉を目指している
  • FRC配位を採用している。

p-11B核融合炉というのは、「中性子が発生しない究極の核融合炉」のようなことが言われます。TAEのWEBサイトでも、「中性子が発生しないから炉の保守が簡単になるんだぜ。すげーだろ」といったメリットをうたっています。ただ、p-11Bには色んな反応経路があるし、核反応生成物と炉壁(ステンレス)との核反応も考慮すると、この方式は完全な中性子フリーではないし、炉が全く放射化しないわけではない。p-11B核融合炉を目指すなら具体的にどれくらい放射化するかちゃんと見積もってほしいなぁと思う。

ITERなどに代表される核融合装置は、p-11B核融合炉ではなくてD-T核融合炉をめざしています。なぜかというと、D-T反応は起こさせやすいからなんですよね。D-Tならプラズマ温度を10keVのオーダーに持っていけば良いですが、p-11Bだと100keVのオーダーにしないといけません。反応断面積を比較した次の図を見ると、p-11Bのハードルの高さは一目瞭然ですよね。

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p-11B核融合炉は中性子が出ないのは良いのですが、それだと熱を取り出しにくいというデメリットもあるんですよね。D-T核融合炉を目指している装置では、核融合反応でプラズマから飛びできた中性子をブランケットというので受け止め、そこでトリチウムを生成しつつ中性子のエネルギーを熱エネルギーに変換してタービンを回すためのエネルギー源にしています。p-11B核融合炉では、中性子が飛び出て来ないからそれができないんです。だから、プラズマのエネルギーを電気エネルギーに変換する装置(Direct Energy Conversion, DEC)が必要なんです。英語のwikipediaにはその記事がありますね(Direct energy conversion - Wikipedia)。TAEの発表資料や、現状の実験装置を見ていると、どうやってDECを取り付けるのかがわからない。あと、DECで実際にエネルギー回収した例があるのかも不明。寿命はどうなんでしょうねぇ。MHD発電は電極の腐食で絶対成立しないなんて話も聞いたことがありますし。。。

2番目の特徴のFRCですが、FRCをここまで発展させたのはすごいです。今の発表だと、パルス幅30 msで電子温度が120 eVぐらい出てるんですかね。文句なしのFRCチャンピオンです。Googleと共同で実験を最適化することで、このようなスペックを叩き出したようです。でも、トカマク配位ならこんな値すぐ出せるじゃないですか。だから、FRCとしてはすごいけど、やっぱり核融合炉としてはしょぼすぎませんかと思ってしまう。

Natureの民間核融合企業の記事について(vol. 599, 18 Nov 2021)

Natureに、民間の核融合企業の記事が掲載された。

www.nature.com

本blogでNatureの記事を細かく説明するつもりはないので、「全くの専門外だけどnatureの記事が気になる」っていう人はGIGAZINEの記事を見てください。(https://gigazine.net/news/20211126-chase-for-fusion-energy/)。

核融合ベンチャー企業のニュースがよく出ますが、これは核融合技術が成熟してきたからではなくて、ただの投資ブームなんです。例えば、暗号通貨の価値がどんどん上がっていますが、これは「暗号通貨で実際に決算ができそうだ」とか「〇〇という人類の課題が、暗号通貨によって解決されるので、これからどんどんみんなが暗号通貨を利用するぞ」とかいう機運が高まっているからではなくて、ただ単に流行っているというだけですよね。

こういうのは良くありますよね。例えばJ-POP歌手でもJAZZ奏者でもCLASSIC奏者でも何でもよいのですが、才能があるから流行るという構図ではなくて、何らかのきっかけで注目をあびだすと、どんどん注目が集まって最終的に絶対的な地位を確立します。

それと一緒で、投資家たちの間で次世代エネルギーに投資することがすごく流行っているらしいです。「ベンチャー企業核融合技術がすごいから投資家から資金を集められている」というのではなくて、グリーンとかエコとかそういうようなものへの巨額の投資マネーが流れている中で、核融合業界にもそのマネーが来ているということなのです。もちろん、昨今の異常気象とか肌で感じてグリーンエネルギーが重要だというのはあるのでしょうが、現状の投資マネーの集まり方は実態と合っていないただの流行りだと思います。

色んな核融合ベンチャーの特徴は今度blogに書いてみますかね。それはおいおいやるとして、natureの記事については以下のことを思いました。

  • SpaceX moment for fusion(宇宙業界はSpaceXを代表とする民間開発が活発であるように、核融合業界でも民間開発が活発化し始めている)とか言っているが、宇宙と核融合は全然違うと思う。宇宙は、技術的に確立していて最近ではロケットの打ち上げ失敗のニュースはとんと聞かない。核融合はそもそも技術的に確立していない。
  • 「中国・韓国・欧州がITERの延長線上にある核融合原型炉を計画している」と書いてあるが、日本がスルーされている。。。欧州程ではないが、韓国以上には日本の原型炉の研究開発が進んでいるのに、日本のことが書かれないというのは本当に日本は外部発信が下手なんでしょうね。韓国はパク・クネ大統領の時に「原型炉に力を入れる!」とか宣言して、一瞬核融合業界の予算が上がったけど、今では全然原型炉の話を韓国から聞かないです。そんな韓国でさえ、nature記事で言及されているというのに日本ときたら。。。
  • mini-tokamakと書いて、(Tokamak energy社の)球状トカマクと(Commonwealth Fusion System社の)トカマクを一緒にまとめるのは完全にミスリーディング。

エルゴード仮説とユダヤの教え

昨日のブログで、全会一致は無効とする(イザヤ・ベンサダン的?)ユダヤの教えを紹介した。全会一致は無効!? - imakov’s blog

この教えは、物理学や数学でいうところのエルゴード仮説に似ていると思いませんか。エルゴード仮説というのは、「時間平均」が「アンサンブル平均」と一致するという仮定です。例えば、電球からの光の強度を測定することを考えます。測定器を1つ用意して、長時間観測してから平均値を算出すれば高精度に光の強度が測定できます。これが「時間平均」です。他には、測定器をたくさん用意して同時に測定してやれば、短時間の観測でも高精度に光の強度を測定できそうです。これが「アンサンブル平均」です。アンサンブルというのは標本集団という意味で、「アンサンブル平均」というのは「サンプルを採取して平均とりました」という意味です。(アンサンブル平均というとカッコいいっすよね。要は平均なのに。)

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昨日のブログで紹介した教えは、「人間は必ず間違うものだから、全員一致で結審するというのは、全員が間違っているということだ。(全員が正解していたら、人間が必ず間違うという前提が崩れてしまう)」というものでした。ここで、「人間は必ず間違う」というのが「長時間観測したときのデータ」で、「多数決で決めた裁決」というのが「アンサンブルから得られる統計的データ」を意味していると考えられます。なので、この教えは「全会一致の結審は間違っている」という風に解釈するのではなく、「全員一致の結果は、標本数が少なすぎる可能性があるから信用するな」という風に解釈できるわけです。

とはいえ、エルゴード仮説が成り立つには定常確率過程が必要なので、多数決の有効性を解釈するには無理がありますかね。

ちなみに、エルゴードという言葉はボルツマンによる造語で、ギリシャ語の ergon(仕事量)+hodos(経路)を語源としているんだそうです。ボルツマンの命名すごすぎっしょ。ボルツマンって名前もかっこいいし。

全会一致は無効!?

大谷翔平が全会一致でメジャーリーグのMVPに選ばれた。本当にすごいです。

イザヤ・ベンダサンの本に書かれているユダヤ人の考え方からすると、全員一致の審決は無効になるらしい。全員一致は偏見か興奮の結果、または外部からの圧力以外にはありえないから、その決定は無効らしい。旧約聖書の「ミカ書」には、人間は絶対誤りを犯すというようなことが書かれているらしい。全会一致で審決していてそれが正しいとすると、全員が正しい判断をしたということになる。これは、「人間は絶対誤りを犯す」という教えに反していることになるから、あり得ないということになるらしい。つまり、全会一致は「全員が誤っている」時にしか発生しないのだ。

ちなみに新約聖書の記述では、サンヘドリン(ユダヤの国会兼最高裁判所のようなもので70人で構成される組織)が下したイエスへの判決は全員一致だったと記されているらしい。

真偽はともかく、考え方としては面白いと思う。

試験・検査・inspection・examination・test

試験と検査という言葉は区別なく使用されるが、JIS B 8265、JIS B 8267などの圧力容器規格では用語が区別して使われているらしい。

  • 試験:メーカーが圧力容器の品質を保証するために行う具体的な活動。
  • 検査:規制機関、第三者機関などが法規制に基づいて行う活動。ユーザーが契約書などの規約に基づいて、所定の品質になっているかどうかを確認する行為も含む。

ASME規格のガイドブック(Companion Guide to the ASME Boiler & Pressure Vessel Code, ASME)によると、次のような使い分けをしている。

  • inspection:公認検査官(authorized inspector)が行う活動
  • examination:メーカーが行う活動
  • test:活動の種類(試験方法)を表す場合に使用される用語であり、一般にメーカーが行う活動。

英訳できる受け身とできない受け身

直接受け身

  • 私の妻が殺された。

簡単に英訳できる。

間接受け身

  • 私は、妻に子供の親権を取られた。
  • 私は、同僚に妻を寝取られた。

これらの例文は対応する能動態がないため、間接受け身と呼ばれる。例えば一つ目の例文は「妻が子供の親権をとった」という能動態にできると思うかもしれないが、元の文の「私は」に対応する語句が消えてしまっているので、対応する能動態とはなっていない。この文には、単に「相手方が親権を持っている」という意味だけではなく、「話者がそういう状況に置かれた」ということに力点が置かれている。さらには、間接受け身には「話者がそう行った状況に置かれて迷惑している・悲しい」という感情的なニュアンスを含む時が多々ある。こういう文は英訳できないので、ニュアンスを汲んで意訳する必要がある。

自動詞の受け身

  • 妻に泣かれた。
  • 妻に出て行かれた。

「泣く」という動詞は目的語を取らないのに、日本語では受け身にすることができる。これも間接受け身の一種で、「話者がそういう状況に置かれた」とか「そういう状況に置かれて迷惑している・悲しい」などというニュアンスを含んでいる。